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鏡による相聞歌  吉野弘

あなたは鏡
わたしをとりこにしていながら
わたし自身を一歩も踏み込ませない

無理にあなたに入ろうとすれば
わたしより先に皹が入る
鋭い裂傷・拒絶の柵が
わたしの前に立ちふさがる

わたしは鏡
あなたをとりこにしていながら
あなた自身をとりこにしてはいない

あなた自身をとりこにしようとすれば
あなたの愛の踏み込んでくる
力ずくな一瞬を待つほかない
そのときあなたから受ける傷
わたしの仮の拒絶の柵
あなたがくぐらねばならぬ柵
それなのに
あなたは立ちすくんでいらっしゃる
砕かれることさえ
わたしは恐れてはいないのに



1月24日の今日、詩人の吉野弘さんがお亡くなりになられました。
数ある詩の中から、私の好きなこの詩を綴ります。
愛ある優しい詩人でした。謹んでお悔やみ申し上げます。

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# by daybreak-of-gaia | 2014-01-24 10:56 | こころのおと

無題☆ハイネ

無題☆ハイネ_e0179437_237098.jpg


わかれには 
おたがいに
こいびとは
てをかわし
なきぬれて
ためいきは
いつまでも
つきぬもの

わかれには
ぼくたちは
なきもせず
ためいきも
でなかった
そのあとで
なきぬれた
せつなくて


”映画の旅”をすることが好きな私は、「男と女」のロケ地、
ここ北フランスノルマンディー地方にあるDeauville (ドゥーヴィル)の海岸にも行きました。
ただただ。。。せつなくてせつなくて。。。


# by daybreak-of-gaia | 2014-01-23 23:07 | こころのおと

平安の色

今日は朝から「源氏物語」を読む。年をかさねるごとに、まったく新しい断面を「源氏物語」に発見する。

あの高貴な六条御息所が、誰に訴えるすべもなく漆黒の闇に閉ざされ、自らのなかから抜け出ようとする生霊をとどめかね、いかに苦しんだことだろう。その懊悩を思わずして、ひとくくりの”物の怪”として御息所に負いかぶせてしまうことの不条理・・・たとえ千古の昔の物語であろうと、私は御息所にこころを寄せてしまう。

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☆お写真は”綾の森”の秘密の場所で出会った「ささゆり」さん☆
# by daybreak-of-gaia | 2014-01-19 17:35 | こころのおと

白い花がふりしきる

生死の中の雪ふりしきる

種田山頭火

***

白い花がふりしきる_e0179437_11102565.jpg


「生死」はおそらくは「しょうじ」と読むのであろう。「せいし」であれば、「中」ではなくて「間」でなければ意味が通じないような気がする。「しょうじ」であればこそ、生死の繰り返されるこの世界という意味も、あるいは自分のこの一生という意味もそこに含まれて、その「中」に「雪」が降る意味もある。「生」と「死」というこの世の表と裏のひとつとしての「雪」が 今「ふりしきる」。

〝生死の中の雪ふりしきる″・・・捨てても捨ててもまだ煩悩が捨てきれいない。だからこそ、山頭火は私たちの代わりとなって、己の生死という生きる上での人としての苦悩、煩悩を捨てたいがために、ひたすら歩き続け、句を詠むしかなかったのではないか。

そして、今日もまた白い花がふりしきる〝綾の森″をひたすら歩きつづける私がいた。花一輪に励まされながら・・・
# by daybreak-of-gaia | 2014-01-19 11:10 | かぜのおと

紅の涙

雨の山茶花の散るでもなく

種田山頭火

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冬の寒い寒い雨の日に 私は”綾の森”にひとり
いつものところ
あなたと歩いたところ
紅い紅い山茶花が ぽつねんと咲いていました

ひとはせつないとき
花のそばにやってきます

花は 咲いているだけなのに
水は 光っているだけなのに

花のかずを かぞえるのは
時をはかる方法
ながれる 時の長さを
あなたへの届かぬ想いを
消えていく愛を

☆蘇芳色の紅い色は女の芯(真)の色です。紅の涙と言いますが、この紅の領域には、深い女の情をもった聖女も娼婦も住んでいるといいます。
# by daybreak-of-gaia | 2014-01-18 23:22 | かぜのおと